小林照幸著『死の貝』を読んだ感想

2025年1月21日火曜日

ノンフィクション 読書

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私的評価

小林照幸著『死の貝』を図書館で借りて読みました。

文庫版では副題に「日本住血吸虫症との闘い」が付いている通り、本書は明治中頃から平成初期まで、100年以上にわたる日本住血吸虫症の解明と根絶の取り組みを記録したノンフィクションです。

日本住血吸虫症は、腹部が妊婦のように膨れ、最終的には死に至る恐ろしい病気でした。発生地域は山梨県甲府盆地底部をはじめ、日本のごく一部に限られていましたが、とくに米作に従事する農村部で多く見られ、長らく原因不明の病として恐れられてきました。
本書では、この未知の病に立ち向かった医師や研究者たちの試行錯誤が、ミヤイリガイという寄生虫の中間宿主の発見に至るまで、詳細に描かれています。彼らの活動は単なる医学的進歩にとどまらず、地域住民の命を守りたいという切実な思いに支えられていました。
特に印象深かったのは、原因解明の過程における研究者たちの苦労と犠牲です。例えば、ある医師は献体の解剖に専念したことで「腹切り医者」と陰口を叩かれ、患者が減り生活に困窮しました。それでも未知の寄生虫を発見し、病気の解明に大きく貢献しました。こうした努力がなければ、原因の特定が遅れ、さらに多くの命が失われていたことでしょう。

人々の生命を守るために尽力した医師や研究者たちの無私の活動と情熱。医療や公衆衛生の発展が、いかに多くの努力と犠牲の上に成り立っているかを考えさせられました。『死の貝』は、多くの人に読んでほしい一冊です。

★★★★★

『死の貝』とは

小林照幸著、1998年7月に文藝春秋から発刊されました。2024年4月に新潮社より文庫化されました。腹に水がたまって妊婦のように膨らみ、やがて動けなくなって死に至る病気。後の「日本住血吸虫症」と闘った医師たちの話です。

出版社内容情報
腹に水がたまって妊婦のように膨らみ、やがて動けなくなって死に至る――古来より日本各地で発生した「謎の病」。原因も治療法も分からず、その地に嫁ぐときは「棺桶を背負って行け」といわれるほどだった。この病を克服するため医師たちが立ち上がる。そして未知の寄生虫が原因ではないかと疑われ始め……。のちに「日本住血吸虫症」と呼ばれる病との闘いを記録した傑作ノンフィクション。

内容説明
腹に水がたまって妊婦のように膨らみ、やがて動けなくなって死に至る―古来より日本各地で発生した「謎の病」。原因も治療法も分からず、その地に嫁ぐときは「棺桶を背負って行け」といわれるほどだった。この病を克服するため医師たちが立ち上がる。そして未知の寄生虫が原因ではないかと疑われ始め…。のちに「日本住血吸虫症」と呼ばれる病との闘いを記録した傑作ノンフィクション。

目次
第1章 死体解剖御願
第2章 猫の名は“姫”
第3章 長靴を履いた牛
第4章 病院列車
第5章 毛沢東の詩
第6章 果てしなき謎

著者等紹介
小林照幸[コバヤシテルユキ]
1968(昭和43)年、長野県生れ。ノンフィクション作家。'92(平成4)年に『毒蛇』で第1回開高健賞奨励賞、'99年に『朱鷺の遺言』で第30回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。信州大学卒。明治薬科大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

紀伊國屋書店

感想・その他

本書で取り上げられている日本住血吸虫症は、日本住血吸虫(Schistosoma japonicum)という寄生虫が原因で発症する感染症です。この病気は、中国、フィリピン、インドネシア、東南アジアなどの地域で発生が確認されていましたが、日本でその存在が解明されたため、「日本住血吸虫」と命名されました。ただし、中国などでは名称に「日本」と含まれているため、この寄生虫が日本から持ち込まれたものだと誤解されることがありました。その結果、中国での研究や指導の際に、医師などが誹謗中傷を受ける事例もあったようです。

最終宿主動物の糞便とともに排出された卵は水中で孵化し、繊毛を持つミラシジウム(またはミラキディウム/miracidium)幼生となる。ミラシジウム幼生はミヤイリガイの体表を破って体内に侵入し、そこで成長するとスポロシスト幼生となる。スポロシスト幼生の体内は未分化な胚細胞で満たされており、これが分裂して胚に分化し、多数の娘スポロシスト幼生となってスポロシスト幼生の体外に出る。娘スポロシスト幼生の体内の胚細胞は、長く先端が二又に分岐した尾を持つセルカリア (cercaria) 幼生となって娘スポロシスト幼生と宿主の貝の体表を破って水中に泳ぎ出す。ミヤイリガイは水田周辺の溝などに生息しており、その水に最終宿主が皮膚を浸けたときに、セルカリアが皮膚分解酵素を分泌して皮膚から侵入し感染する。その後肝臓の門脈付近に移動して成体となる。成体は成熟すると雌雄が抱き合ったまま門脈の血流を遡り、消化管の細血管に至ると産卵する。卵は血管を塞栓するためその周囲の粘膜組織が壊死し、卵は壊死組織もろとも消化管内にこぼれ落ちる。



Wkipedia(日本住血吸虫)

それにしても実に興味深いのが、日本住血吸虫の生態です。

1. ヒトや動物の糞便に混じって排出された卵が水中に落ちます。
2. 卵が水中でふ化し、幼生(ミラシジウム)になります。
3. 幼生がミヤイリガイという巻き貝に寄生(スポロシスト)します。
4. 貝の中で分裂増殖した幼生(セルカリア)が水中に泳ぎ出します。
5. 幼生がヒトなどの哺乳類の皮膚から侵入し、腸と肝臓をつなぐ肝門脈内に寄生します。

こういったことを地道に究明していった先人たちには、ほんとうに感謝しかありません。



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1964年生まれ。糖尿病を患ってから、自転車と歩くことを趣味にしています。毎日クスリ飲んでます。

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