私的評価
鈴木壮一著『ロシア敗れたり―日本を呪縛する「坂の上の雲」という過ち』を図書館で借りて読みました。本書は、司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』に記された内容――「小説でありながら史実書でもある」とされる作品――の虚構を徹底的に暴き、その内容を厳しく否定しています。例えば、『坂の上の雲』では第三軍の乃木将軍とその参謀長・伊地知少将を無能とし、満洲軍総参謀長・児玉源太郎を絶賛しています。しかし、鈴木氏は『坂の上の雲』が生んだ「誤った認識」が日本を呪縛していると指摘しています。
実際、私もかつて『坂の上の雲』を読んで感銘を受け、映画『二百三高地』で仲代達矢が演じた乃木将軍の姿しか知らなかったこともあり、小説の内容をすべて鵜呑みにしていました。しかし、この本を読むうちに、乃木将軍は確かに「戦下手」だったかもしれませんが、「愚将」ではなかったのだと考え直すようになりました。
…とはいえ、そんな他人の意見に影響を受けやすい自分がいるのも事実ですが。
★★★★☆
『ロシア敗れたり―日本を呪縛する「坂の上の雲」という過ち』とは
鈴木壮一著、2023年9月23日に毎日ワンズから発刊されました。2024年10月10日に同じく毎日ワンズより『ロシア敗れたり(親書版)「坂の上の雲」という呪縛を解く!』が発刊されました。内容説明
吹けば飛ぶような小国がなぜ、世界最強のロシア陸軍を打ち破り、無敵のロシア海軍を全滅させることができたのか……
幕末維新史の定説を覆した大ヒット作『明治維新の正体』の著者が、『坂の上の雲』という過ちに挑み、日露戦争の真実に迫る、衝撃の書き下ろし最新刊!
目次
第1章 恐ロ病が生んだ嫌ロ感情
第2章 義和団事変
第3章 満州を占領したロシア軍の脅威
第4章 開戦への道
第5章 日露戦争の緒戦
第6章 海軍が旅順占領を要請
第7章 旅順第一回総攻撃の失敗
第8章 旅順第二回総攻撃
第9章 旅順攻略
第10章 遼陽会戦
第11章 沙河会戦
第12章 奉天会戦
第13章 東郷平八郎の日本海海戦
終章 乃木希典の自刃
著者等紹介
鈴木壮一[スズキソウイチイ]
近代史研究家。昭和23年生まれ。昭和46年東京大学経済学部卒業後、日本興業銀行にて審査、産業調査、融資、資金業務などに携わる。とくに企業審査、経済・産業調査に詳しく、今も的確な分析力には定評がある。平成13年日本興業銀行を退社し、以後歴史研究に専念、現在は「幕末史を見直す会」代表として、現代政治経済と歴史の融合的な研究や執筆活動などを行っている。著書に、『明治維新の正体』(毎日ワンズ)、『日露戦争と日本人』(かんき出版)、『日本征服を狙ったアメリカのオレンジ計画と大正天皇』(かんき出版)、『アメリカの罠に嵌った太平洋戦争』(自由社)、『陸軍の横暴と闘った西園寺公望の失意』(勉誠出版)、『昭和の宰相近衛文麿の悲劇』(勉誠出版)など。
毎日ワンズ
感想・その他
本書を読んだ後、Wikipediaで「乃木希典」のページを確認してみました。戦時中、乃木将軍は兵士を多数戦死させたため自宅に投石されるなど非難されましたが、一方で「いかなる大敵が来ても3年は持ちこたえる」と豪語した旅順要塞を半年余りで攻略し、二人の子息を戦争で失ったことなどから、凱旋時には他の将軍とは一線を画す大歓迎を受けたと記されています。人心というものは曖昧でいい加減なものと感じずにはいられません。
また、Wikipediaの記事を読む限り、仮に乃木将軍が「愚将」であったとしても、人としては非常に高潔な人物であったことが窺えます。ぜひ一読をお勧めします。
最後に、映画『二百三高地』のラストシーン――明治天皇の御前で乃木将軍が自筆の復命書を奉読する場面を思い出しました。あのシーンは何度見ても胸が熱くなります。
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2 件のコメント:
歴史の審判 人物の評価 って難しいですね、
次期大統領も我が地の前市長も多数が評価してます。
匪石さん、コメントありがとうございます。
兵庫の知事だってよく分からないのに、ましてや歴史上の人物なんて難しいですよね。
ただ私は、あの実行力ある河村さんは良い評価しています。
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