河野啓著『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』を読んだ感想

2022年1月17日月曜日

ノンフィクション 読書

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私的評価

河野啓著『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』を図書館で借りて読みました。

話題の本ということで、手元に届くまで五か月、そして読むのにかかったのはわずか一日。それほど引き込まれる内容でした。
本書の著者は、北海道放送のディレクターで、2008年から2009年の約2年間にわたり、ドキュメンタリー番組制作のため栗城史多さんに密着取材を行いました。その経験を基に、栗城さんという登山家が一体何者だったのか、そしてなぜ命を落とすことになったのかを深く考察しています。
推理小説を読んでいるかのようなスリリングな面白さで、気づけば貴重な休日だった日曜日をまるごとこの本に費やしてしまいました。

★★★★★

『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』とは

内容紹介
【第18回(2020年)開高健ノンフィクション賞受賞作!】両手の指9本を失いながら〈七大陸最高峰単独無酸素〉登頂を目指した登山家・栗城史多(くりきのぶかず)氏。エベレスト登頂をインターネットで生中継することを掲げ、SNS時代の寵児と称賛を受けた。しかし、8度目の挑戦となった2018年5月21日、滑落死。35歳だった。彼はなぜ凍傷で指を失ったあともエベレストに挑み続けたのか? 最後の挑戦に、登れるはずのない最難関のルートを選んだ理由は何だったのか? 滑落死は本当に事故だったのか? そして、彼は何者だったのか。謎多き人気クライマーの心の内を、綿密な取材で解き明かす。
≪選考委員、大絶賛≫
私たちの社会が抱える深い闇に迫ろうとする著者の試みは、高く評価されるべきだ。――姜尚中氏(政治学者)
栗城氏の姿は、社会的承認によってしか生を実感できない現代社会の人間の象徴に見える。――田中優子氏(法政大学総長)
人一人の抱える心の闇や孤独。ノンフィクションであるとともに、文学でもある。――藤沢周氏(作家)
「デス・ゾーン」の所在を探り当てた著者。その仄暗い場所への旅は、読者をぐいぐいと引きつける。――茂木健一郎氏(脳科学者)
ならば、栗城をトリックスターとして造形した主犯は誰か。河野自身だ。――森 達也氏(映画監督・作家)

目次
序幕 真冬の墓地
第一幕 お笑いタレントになりたかった登山家
第二幕 奇跡を起こす男と応援団
第三幕 遺体の名は「ジャパニーズ・ガール」
第四幕 エベレストを目指す「ビジネスマン」
第五幕 夢の共有
第六幕 開演! エベレスト劇場
第七幕 婚約破棄と取材の終わり
第八幕 登頂のタイミングは「占い」で決める?
第九幕 両手の指九本を切断
第十幕 再起と炎上
第十一幕 彼自身の「見えない山」
第十二幕 終演~「神」の降臨~
最終幕 単独
あとがき

著者紹介
河野 啓[コウノサトシ]
1963年愛媛県生まれ。北海道大学法学部卒業。1987年北海道放送入社。ディレクターとして、ドキュメンタリー、ドラマ、情報番組などを制作。高校中退者や不登校の生徒を受け入れる北星学園余市高校を取材したシリーズ番組(『学校とは何か?』〈放送文化基金賞本賞〉、『ツッパリ教師の卒業式』〈日本民間放送連盟賞〉など)を担当。著書に『よみがえる高校』(集英社)、『北緯43度の雪 もうひとつの中国とオリンピック』(小学館。第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞)。

紀伊国屋書店

感想・その他

栗城史多さんの名前は「ノブカズ」と読みます。私も2012年頃、NHKの番組を観て彼のファンになったことがあります。彼が歩いている様子を自らカメラで撮影し、それを回収するために来た道を引き返す――そんな姿に感銘を受け、「凄いなぁ」と感じていました。
しかし、ある時、彼に対して批判的な発言をする登山家が多くいることを知り、それがきっかけで彼に対する見方が変わり、急速に興味を失ってしまいました。

世界七大陸最高峰の「単独無酸素登頂」という記録についても調べてみると、実際には酸素ボンベが必要とされるのは標高8000メートルを超えるエベレストのみだそうです。栗城さんが達成したその他の六大陸の山々は、そもそも酸素ボンベを使用する必要がないとのことです。また、「単独」についても厳密な定義はないようですが、登山界で一般的に「単独登頂」とされる条件は次のようなものです。 「登山の行程をすべて一人で行い、ベースキャンプより上では他者からのサポートを一切受けず、事前に設営されたキャンプや固定ロープ、ハシゴなども使用しない(いわゆるアルパインスタイル)」。
しかし、栗城さんの場合は、大規模な栗城隊を組み、雇用したシェルパが固定ロープの設置やキャンプの準備を行い、無線を通じて気象情報や行動計画のサポートを受けながら登っていたとされています。

また、2012年の遠征で9本の指を失う凍傷についても、その筋の専門家からは「異様な凍傷」と指摘されています。凍傷部分がきれいに一直線に並んでいたため、「意図的に凍傷を作ったのではないか」と疑われることもあったようです(その結果、やり過ぎて切断に至ったのではないかとの推測もあります)。

栗城さんの関係者や登山家など、多くの人へのインタビューが行われていますが、本には著者自身の推察も多く含まれています。そうした推察を鵜呑みにするのではなく、考えながら読むことが大切ではないでしょうか。



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1964年生まれ。糖尿病を患ってから、自転車と歩くことを趣味にしています。毎日クスリ飲んでます。

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